本当は,あの葡萄が欲しかった.
はっきりと近づいてそれを見たことはなかったけど
とても素敵なものだということはなぜか知っていた.
だから私は,葡萄を手に入れようと頑張った.自分の時間も,愛情もささげたつもりだった.
でも,手に入れようと足掻けば足掻くほど,私はひどく傷ついた.
葡萄が私を否定している気さえした.
その果実にあと数cmで手が届きそうかと思うと,次の瞬間は遥か地平線の先にあるような葡萄.
遠くに霞んで見えるあの葡萄を目指す気持ちがくじけそうになった時に
ふと,自分のそばにいくつもの瓶があることに気がついた.中は紫色の液体で満たされていた.
「私は直感的に,それが葡萄の代用品であることに気がついた」
口に含んでみると,甘くて美味しかった.だから,その美味しさにとりあえず身を委ねることにした.
なんとなくほんものではないものに浸っている自分に後ろめたさを感じながら.
でもいいんだ.この瓶は,簡単に手に入るし,自分を傷つけたりしないし.
そうしていつからか私は,葡萄がすぐそばにあるのに気付かず,瓶の栓を抜いては味わった.
無くなったら,また他の,紫色の新鮮な瓶を手に取ればいいだけのこと.
残るのは,たくさんの空き瓶と,居場所を失ったひとふさの葡萄.
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